Vol.34:”スタートアップ”とは一体なんなのか

前提として、ここでのスタートアップの定義とは、株式割当による資金調達を行った企業と置いています。
結論から言うと、会社を「劇的に」「急速に」大きくするための仕組みであって、それ以上でもそれ以下でもないです。

劇的とはどれくらいの成長を指すのかという話ですが、Y Combinatorでは3ヶ月の期間中、週次で5〜7%の成長を求められます。
ちなみに週次で7%の成長を続けた場合、3ヶ月後には約2.5倍、1年後には約35倍、2年後には約1,100倍の規模になっている計算です。

こういった成長を目指すためには、少しずつ利益を拡大して余剰資金を投資に回す、という方法ではスピードが全く足りません。
そのためにスタートアップが何をするかというと、自分たちの将来価値を算定し、株を差し出し、成長のための劇薬となる資金を得るわけです。
そしてアクセルを踏み続け、投下した資本に成長が見合っているかを評価し、そして評価され、新たな劇薬を得るために改めて資金調達に動きます。
そして閾値を超えた企業は上場やセルアウトという中間地点にたどり着く一方、多くのスタートアップは音もなく息を引き取ります。

そもそも、投資家目線では多くのスタートアップ企業は失敗します。
冒頭でも触れたY Combinatorの創設者であるポール・グレアム氏は、成功の定義を40億以上のバリエーションになることとした場合その成功率は7%だと述べています。
つまり、最も優れた投資家集団である彼らですら、”9割以上のスタートアップは失敗することを前提に”考えているわけです。
ただ、多くのスタートアップ創業者は自分はその一握りの企業であると信じて、最初の一歩を踏み出します。
(「なぜ急速な成長を目指さなくてはいけないのか」という点については論点がぼやけてしまうので別の機会に触れます。)

少し違った視点からも話しておくと、スタートアップは経営者を幸福にするための仕組みではありません。
いろんなものを、本当にいろんなものを犠牲にしてその成功に賭けたとしても、それが必ずしも報われる場所ではありません。

だから僕は、今からスタートアップを始めようとしている方に相談を受ける場合、その方が人生で何を成し遂げたいのかを重点的に聞きます。
その目的が世界を変えたいとか、大きな会社を創りたいということであればもちろん応援します。
そうではなく、より多くの時間を得たいとか、年収数千万円を目指したい、というような人であればスタートアップを始めることを僕は勧めません。
ただ、誤解がないようにしておきたいのですが、前者と後者どちらかが素晴らしいということではなく、それぞれが信じることをやればいいんです。

僕はスタートアップという仕組みやそれを選んだ過去の自分にとても感謝していますが、これが全ての人生にとって最適であるとは全く思っていません。
起業や独立なんて秒で決断すればいいと思っていますが、外部に株式を渡すかどうかはめちゃくちゃ熟考した方がいい。
この記事が、なんとなく起業=スタートアップだと思っている方にとって考えを深めるいいきっかけになれば幸いです。