Vol.31:スタートアップでは(あまり)やりたい事ができない理由

まず「スタートアップ」というものの定義から始めますが、ここでは外部から株式割当による資金調達を行い、将来的になんらかのEXITを目指すものとして置きます。
つまり、小さな成功ではなく、大きな成功を目指すためのものです。

じゃあなぜやりたい事ができないのかという話なのですが、その理由は勝負をかけるべき領域が限られるからです。
ポール・グレアム氏なども言っていますが、ビジネスを始める上でどの市場で勝負すべきは非常に重要です。
特に、大きな成長を目指すスタートアップ経営においては、小さな市場ではなく大きな市場での勝負が(本来)常に求められます。
そのため、起業家が選択できる市場は現在であればFinTech、ヘルスケア、ECなど限られたカテゴリーのみとなります。

もちろん、その限られたカテゴリーに対してあなたがもともと興味を持っていれば、自分がやりたい事業をスタートアップとして運営することが可能です。
しかし、それらに関心がない場合であっても、大きな事業を創ることが最も重要であるスタートアップにおいては、それらの領域から何かを選び、事業を進めていかなくてはいけません。

起業家には2つのタイプがあります。
1つは自分のやりたいことをベースに事業を創る人。
そしてもう1つはトレンドを見据え事業を創る人。
もし、あなたが自分を前者寄りだと思うのであれば、スタートアップでの事業運営はあまりおすすめしません。
スタートアップをすることが、起業の目的ではないので。

Vol.29:スタートアップの資金調達時における時価総額はいかにして決まるのか

この前ちょっとご質問をいただいたので書いておきます。
結論から書くと、相場を土台にしつつ、最後は担当している方のノリと気分です。

スタートアップ企業における資金調達の多くはポテンシャルを評価しての時価総額となるので、結局そこをどう評価していくのかによって金額が大きく変わってきます。
資金調達合意直前の案件が、1人の動きによって結局倍の時価総額で着地したという話も聞いたことがあり、このエピソードからも時価総額というのがいかに不確実なものかが分かると思います。

さらに書いておくと、2012年くらいの時期はシード時の時価総額は3,000万円程度が一般的でしたが、現在は1億以上での資金調達が多くなっていると聞きます。
この約5年で起業家全体の能力が3倍以上になったとは考えづらいので、これらは企業価値の向上というよりも「そういう相場だから」だと言えます。

なぜ相場が変わってきているかについては、余剰資金がファンドに流れ込んでいるとか、各種スタートアップの成功事例が出ることで期待値が上がってきているとかの理由になりますが、今日はここで筆を置きます。

Vol.27:スタートアップはバイアウトに向いてないという意見への反論3つ

反論、と言っても前々回のポストに自分で書いたことなんですが。
それを書いていくうちに「んなこたーんない」と自分で感じたのでその理由をパラパラと。

1. 投資家の方からの紹介が起こり得る
投資家の人は起業家とは異なる各種ネットワークを持ってらっしゃる場合が多いです。
そのため、自分ではリーチできない買い手企業とのマッチングが実現し、買収に至る可能性が高まります。

2. トレンドに乗っかりやすい
スタートアップは高速での圧倒的成長を目指して資金が投入されるものです。
そのため、直近だと例えばAIや仮想通貨などのトレンドである市場において、事業開始間もない企業であっても存在感を示すことが可能です。
それにより、その市場に参加したい大手企業などによるバイアウトが行われる場合が増加します。

3. 知名度を上げやすい
前述の通り、スタートアップ企業は資本を成長に投資するため、赤字であったとしても販管費を投入できている場合が多いです。
また、昨今のスタートアップ関連メディアの増加や起業文化の隆盛に伴い、いわゆる普通の中小企業よりも露出の機会が多く存在します。
どれだけ素晴らしい会社であったとしても知られていなければバイアウトには至らないので、この点においてもスタートアップ企業は有利だと言えます。

色々と書いてみましたが「◯◯だから絶対にバイアウトできる」なんてことはなくてその逆もまた然りです。
大事なのは良い事業を創る、ということだけ。

Vol25. バイアウトに至りやすい会社経営の進め方3点

昨日の投稿の補足として、バイアウトに至りやすいスタートアップ経営の進め方として書いていきます。
必ずこうしなくてはならないというわけではなく、そうすることで可能性が高まるよ、という話を3つに分けて。

1つめとして、そもそもスタートアップ企業はバイアウトにあまり適していないと考えています。
理由は、それらは赤字状態で経営されていることが多いからです。
※一応書いておくとスタートアップ企業というのは爆発的な成長を目指すため、短期的な利益を度外視して資金調達を繰り返しながら先行投資を継続して行います。

赤字経営の場合、ある程度リスクを取れる会社しか買い手候補となりません。
また、赤字経営の場合はいずれかのタイミングでキャッシュアウトするのですが、それは交渉において買い手に有利となります。
なぜなら、買い手は交渉を長引かせることによって有利な条件を引き出しやすくなるからです。
もちろん利益を出しているケースもままありますが、この理由からスタートアップ企業はあまりバイアウトに向いてないと考えています。
(と、思ってたんだけど書いてたらんなこたーないとも思ったので反論を改めて書きます。)

2つめとしては、時価総額を上げすぎないことが大事です。
日本では時価総額が10億円を超えてくると、その会社を買える会社はとても少なくなります。
なので、バイアウトの可能性を考慮するのであれば、意図的に時価総額を上げすぎないということも一つの戦略です。
その際には、自分たちが戦っている事業領域・買い手先候補の企業の懐具合を見ながら考えていくべき。

3つめとしては、優先株を恐れないこと。
一般的には起業家に不利になりやすい優先株ですが、仮にダウンバリューでの売却であっても投資家に経済合理性が生まれ、それにGOサインを出す可能性が高まるということです。

Vol24. バイアウト関連イベント登壇時に話した5つのこと

ひっさしぶりの更新となりますが、先日以下のイベントにお声がけいただき登壇させていただいたので、そちらで僕が話した内容についてメモ的なものを公開しておこうと思います。
売却経験者・投資家と考える、M&A成功の秘訣とそのトレンド

箇条書きで恐縮ですが、当日のアジェンダへの回答としての文章です。
説明をすっ飛ばしてて会場では補足した点もあるので、そこについてはまた書くかも。

ーーーーー
・なぜ売却を選択したのか?
 └その方が事業を伸ばせると思ったから。
 └上場→バイアウトはあまりないが、バイアウト→上場はありうるし両方興味があったから。
 └(しょうもないけど)当時30歳になったばかりだったので、良い区切りかなと思った。

・売却前後でどのような変化があったか?
 └ポジティブ:今までリーチできなかったクライアントさまにリーチできるようになった。
 └ネガティブ:SOを付与できなくなるなど採用難易度が上がった。

・売却時に気をつけたいポイントは?
 └そこに至るまでの前提としては、そもそもスタートアップはあまりバイアウトに向いてない。あとは時価総額を上げすぎないことと、優先株を恐れないこと。
 └実際の交渉時に関しては、楽観的になりすぎないこと。弁護士さんを入れてめちゃくちゃ読み込むこと。投資家を当てにしすぎちゃだめ。

・売却をおすすめする起業家・事業タイプはあるか?
 └売却したい人はみんなすればいい。
 └売りやすい事業タイプとしては、トレンドに乗っている、属人的でない、利益が短期で出やすいもの。
 └そもそも、バイアウトしたい場合は、売り先の想定含めそれ前提で事業を始めた方がいい。
  └バイアウトの延長線上に上場はあるけど、上場の延長線上にはバイアウトはあまりない。

・メッセージ
 └バイアウトしたから、上場したからといって偉いわけではない。”本当に”やりたいことを見つけてそれをやっていくことが大事。
 └人生はそれなりに長いので、上場orバイアウトではなく長いスパンでキャリアを考えるべき。
ーーーーー

僕以外の方のお話も含めた記事が近日中に公開されるかと思いますので、そちらもお楽しみにー!

Vol20. スタートアップ界隈に漂う嘘

事業や経営について、ご相談を頂くことがちょこちょことあります。
その際によく感じるのが、「一般的には正しいと言われるが経験者の多くはそれが間違いだと知っている知識」が共有されておらず、多くの方が同じ過ちを繰り返しているということです。

ただ、これについてはしょうがない部分もあると思っています。
なぜなら、その誤りを指摘することが誰かにとってネガティブな情報になり得るため、公言し辛いからです。
加えて、日本でもスタートアップ文化が発達してきたとは言え、依然として広く強いコミュニティにはなっておらず、実例も少ないからです。
例えば僕がバイアウトを行った際にも、参考になるような具体的な資料は一切ありませんでした。
しかし僕は周りの方に恵まれバイアウト経験者の方何名かにお話を伺えたのですが、これはとても幸運なことでした。

現状、これらの罠を避けるためには起業の先輩、もしくは投資家の方に定期的に相談するしかないですが、この方法も正直ハードルが高い。
解決するためのアイディアはあるので、今すぐではありませんが、この状況を改善することでスタートアップ界隈への恩返しをしていきたいです。

Vol15. スタートアップのNo2に求められる忘れられがちだけど1番重要なこと

個人創業の方には同意してもらえると思うのですが、ある程度事業が軌道に乗った段階で「右腕となるNo2が欲しい病」にかかる方が多いです。
個人で創業することにも多くのメリットがありますが、事業規模が大きくなってくるに従って誰かに相談したい、業務を移譲したい、という欲求が強くなってきます。

しかし、「自分の右腕」ということで当然誰でも良いわけではありません。
そこで多くの方ができるだけ優秀な方を採用しようと努力し、結果として優秀な方を採用できているケースも多いです。
ただ、優秀であればそれで良いわけではなく、経営を行う上でNo2に求めるべき最も重要な要素があります。

その要素とは「自分が”No2である”という自覚がある」というものです。
共同創業あるあるでもありますが、最終意思決定者が曖昧な場合、要するにNo2が社長のように振る舞った場合の結果はたいていひどいものになります。

まず、意思決定スピードが落ちます。
次に、最終的なアウトプットが無難なものになります。
最悪な場合、派閥ができてしまい組織が破綻してしまうこともあります。

僕は、スタートアップは社長のトップダウンであるべきだと思っています。
それは人の意見を聞かないということではもちろんなく、社長が責任を持って意思決定を行うということです。
No2は社長の決断を信じられなくなってしまったのであれば辞めるべきだし、自分の意見の方が絶対に正しいと思うのであればそれはもう自分で経営した方が良い。

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僕らが頑張ればそれだけ訪日旅行者の方によりご満足頂けるやりがいのある事業なので、何らかの形でのご参画に興味がある方はお気軽にメッセージ下さい!
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Vol14. 会社が潰れるタイミングとは

この前ふと感じたのは、終わりがある絶望ってのは絶望ではないんだな、ということ。

僕は仕事が好きですが、今の働き方を死ぬまで続けなきゃいけないとしたら正直しんどいです。
ただ、スタートアップという働き方が良いなと思うのは、その先に大きな希望があるということ。

その希望は人によっては時間的・金銭的な自由かもしれませんし、ユーザーの方の喜びかもしれません。
どんなものであれ、いつかは報われるという希望さえあれば、人は前を向けるんじゃないでしょうか。

僕も起業してからしんどいなーと思ったことは何度もありましたが、それでもやってこれたのは自分やチームを信じ続けることができたからです。
会社が潰れるのは、資金が尽きた時でもなく、人に忘れられた時でもなく、経営者の心が完全に折れた時だよな、と。

以前にも同じようなことを書きましたが、心が多少折れてしまっても良いと思ってます。
そこで無理をして取り返しのつかないことになってしまうよりも、それを認めて、休んで、ちゃんと生きていける状態になれた方が良い。
自分がそこから立ち直れるということを知れたので、しんどいことをたくさん経験できた20代を過ごせたことは本当に良かった。

Vol4. 僕の起業前の1年の過ごし方

メッセでご質問を頂いたので少し書いてみます。
僕は起業する1年前は新卒として働いていたので、新卒としてどのように毎日を過ごしていたのか、という話となります。
結論から書くと資金を貯める以外の起業準備は行わず、ただただ働いていました。

1. 働き方
基本的に平日は15時間働いて、土日も働くというスケジュールでした。
他に決めていたことは土曜の夜だけ人に会って良いということと、平日1回・土日どちらかに1回はジムに行くということのみ。
大学時代から運営していたサイトの更新や起業に向けての準備も全く行わず、とにかく目の前の業務に集中していました。

ちなみにですが、僕が新卒として企業選びをしていた際の基準の1つが残業代が”出ない”ことでした。
なぜなら、とにかく働きまくりたかったので。

2. 暮らし方
会社から徒歩圏内にしか住みたくないので勤め先があった渋谷近辺に住んでいたのですが、立地にしかこだわりがなかったため、広さ14㎡の家に住んでいました。
狭いと感じる方が多いみたいですが家は帰って寝るためだけの場所だったので、不満がないどころか掃除が楽でいいなーと思ってました。
どれくらい家にいなかったかいうと、住み始めて半年経った時点ではトイレットペーパーを1ロール消費していませんでした。

料理は好きな方なんですが、自炊は時間がもったいないと考えたためフライパンなどの調理用具は一切なく、それどころか電子レンジやヤカン的なものも家にありませんでした。
ちなみにこの状態は今も続いています。

3. 起業資金の貯め方
上記のように働く以外のことはほとんどしていなかった結果、1年でたしか200万くらい貯まりました。
また、勤めていた会社にはランチ時に仕出し弁当を一食300円で購入できるというという福利厚生があったため、それを2つ買って昼と夜に同じお弁当を食べるということもしていました。

4. 起業準備について
先に書いたように準備は一切行っていなかったのですが、その理由は僕はあまり器用ではないので業務と準備の両方をやってしまうと中途半端になってしまうと考えたからです。
また、大学生の時点で自分の運営していたサイトでそれなりに稼げていたため、辞めた後ににっちもさっちもいかなくなることはないだろうと考えたのも理由の1つ。

Vol3. 起業する前に考えておくべき「独立・起業・スタートアップ」の違い

周りの方から起業するか否かなどについてご相談を頂くことが多いので、その際にお伝えしていることを書いておきます。
結論としては独立・起業はすぐやって良いけどスタートアップをするのはちゃんと考えた方が良いよ、というもの。

世間一般とは異なるかもしれませんが、この文章においての定義は以下の通りです。
ーーーーー
・独立:今まで行ってきた業務を会社から離れて行う。コンサルや人材紹介業など。

・起業:今まで行ってきた業務と異なる業務を行う。新たなサービスの開発など。

・スタートアップ:株式を使った資金調達を入れて起業を行うこと。
ーーーーー

独立や起業については、無茶な借金をするような形でなければすぐにでもやった方がいいと考えています。
“成功”したら素晴らしいし、失敗してもそれらを志すような方であれば転職先はきっとあるはず。
考え得るリスクとしては起業しない場合との成長や時間のトレードオフ、資金がゼロになることが主ですが、独立・起業以上にビジネスで成長できる機会は少ないですし、その成長によってサラリーマンとしての収益期待値も何段か上がるはず。

それでもまだ迷うのであれば、期限を決めて起業してしまえば良いと考えています。
それであれば、上記2つのリスクも最小化できますし、起業というものについて過大・過小評価がなくなります。

しかし、株式を使った資金調達を入れるか否かは自分が望む将来と照らし合わせての熟考が必要です。
なぜなら、それをやるか否かによって取り組むゲームがまるで違ってしまうからです。
例えばですが、個人コンサルで月商150万円の場合、売上は利益とほぼイコールなので年収は1,800万円になり、これは個人としてはいわゆる”成功”と言われる数字ですがスタートアップとしては失敗です。
株式を使った資金調達を行った場合、当然ご出資を受けた際の時価総額よりもそれを上げていかなくてはならず、そのためには当然さらに大きな売上(や利益)が必要なので。
そして年商2,000万と20億円、それぞれのビジネスを創る難易度は後者の方が当然高いわけです。

目指すものが自由かつ年収2,000万円程度の生活、ということなのであれば株式を使った外部資本は入れない方が良いです。
もちろん、世界を変えるような大きな勝負をする上でそれは非常に有用ですが、自分が望むものとのミスマッチがある場合それは誰も幸せにしないので。
僕はスタートアップという世界に飛び込んだことを本当に良かったと思っていますが、「起業=スタートアップ」的な風潮には違和感があります。

ここらへんもご参照頂くといいかなーと。
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